「天皇公選制」としての選抜総選挙
「アイドルとは何か。
その答えは、日本国憲法に書いてある。」
アイドル評論の第一人者、中森明夫は『アイドルにっぽん』の「序章「アイドルにっぽん」宣言」をこう書き出している。
「第一章、第一条――。
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
今、私はこの「象徴」を「アイドル」と読み換えてみたい。
天皇は、日本国のアイドルである。
つまり我が国は、天皇をアイドルとする芸能国家なのだ、と。逆に天皇を「アイドル」と読み換えたらどうなるか。その際、日本国民は「ファン」と読み換えられるだろう。
アイドルとは、ファンの統合の象徴であって、その地位は、ファンの総意に基く。そう、主権はあくまでファンの側に存在するのだ。」
中森は、ファンの総意のもとづくアイドルを、国民の総意にもとづく象徴天皇になぞらえている。
とはいえ、ファン(国民)は、アイドル(天皇)が選ばれる過程に参加することはできない。
アイドルを選び、売り出すのは少数のプロたちである。
48グループも例外ではなく、どのメンバーが推されるか、誰が次のエースに、センターに選ばれるかは「運営」なるブラックボックスの中で決められる。
しかし、48Gにはひとつの例外があった。
言うまでもなく、選抜総選挙である。
次のシングルのセンターを、選抜メンバーを、ファンが投票によって決められる機会が、1年に1度だけとはいえ、ある。
そして、1年に1度だけとはいいながら、選抜総選挙の結果は運営の「誰を推すか」の判断にその後も影響を与える。
あらためてアイドルを象徴天皇になぞらえるなら、48Gは、いってみれば「天皇公選制」を部分的に――とはいえ、グループの代名詞ともなるような大々的なイベントとして――導入したのである。
総選挙最強の指原莉乃さんを、どこかの週刊誌が揶揄するつもりで「天皇」と呼んでたけど、あれはある意味正しかったですね。指原さんはヲタクが選んだ天皇なのである。
さて、中森先生はこうも書いている。
「日本は世界のアイドルになるべきだ!
ただ、かわいいだけの国になるべきだ!!
もはや軍事力も、経済力も求めない。ただ、魅力だけがアイドルたる私たちの国の最後の武器となる。」
国際政治学で言うソフトパワー戦略というやつですね。軍事とかのハードパワーでなく、文化というソフトパワーを外交や安全保障の武器としていく、という(クールジャパンとか言ってるのもソフトパワー戦略のひとつです)。
中森氏のこのマニフェストを、総合プロデューサー秋元康が知らないはずはない。
そして今、現実に、48グループのフォーマットは、アジア各国に次々と輸出されている。
アイドル=象徴天皇制をアジア各国に輸出し、移植したのだ。
あまりにも、あまりにも剣呑である。
しかし、それは成功した。
それを可能にしたのは、「総選挙」という、天皇制とは本質的に相容れない民主的手続きを伴ったからだったのかもしれない。
平成のおわり、48Gは、アイドル=象徴天皇制を民主化し、普遍化してのけた。
…とか書いてたら今年は総選挙やらないとかいう話になっていた。どうなっちゃうの?