48神学

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『AKB48、最近聞いたかも?』プロデューサーの2013年におけるAKB48との距離感がおもしろかった

テレビ東京の『AKB48、最近聞いたかも?』の高橋弘樹プロデューサーが、2013年に書いた本。

 

高橋さんがテレビ番組作りの方法について書いている。

この本には計5回、AKB48が登場する。

まず、「そもそもテレビディレクターの仕事とは」の説明が序盤にある。

ここで、ディレクターの仕事のひとつ、「セットの発注」がどんな作業なのかを説明するために、具体例としてAKBが出てくる。

AKB48の「ポニーテールとシュシュ」という曲なら、夏っぽい曲だから海っぽいセットにしようとか、「ギンガムチェック」という曲なら、縦縞模様のセットにしてみるか、とかそういうことです。AKB48に会ったことすらないのでわからないのですが、ざっくりいうとそんな感じです。

 

次に、やはりディレクターの担当業務のひとつ、「カット割り」について説明したくだり。ここにもAKBが具体例として出てくる。

たとえばAKB48の「ポニーテールとシュシュ」なら、はじめの方は、グループ全体を見せるため2カメで全体に引いたサイズを見せよう。その次は、自分は大島優子推しだから大島優子を1カメで撮ろう。
 でもそればかりだとファンと事務所からクレームが来そうだから、サビあたりで前田敦子を3カメでとろう。
 で、ラストは頭の上でシュシュを振るような振り付けがあったから、やはり一番お気に入りの大島優子を、その仕草がわかるように、顔にヨッたサイズで撮ろう、といった具合です。AKB48を撮ったことがないので、ざっくりですが、多分こんな感じでしょう。

 

さて、ここまで説明したのは、セットを組んだり、タレントを何人も呼んだりする、いわば「普通の番組」――音楽番組やお笑い番組トーク番組の作り方である。それは、この本では詳述しない、と著者はいう。

本書のテーマは、「手作りで番組を作る方法」である。金のかからない、タレントの力に頼らない「手作り番組」こそが髙橋氏の得意分野であり、ものづくりの喜びを味わえる仕事なのだ。「手作り番組」になりえるのは、ジャンルで言えば情報番組や紀行番組、ドキュメンタリー番組だ。

では、「手作り番組」の作り手に必要な能力とはなにか? を説明するために、AKB48が三たび登場する。

こうした「手作り番組」を作る上で最も重要なのが、物事の魅力を発見し、引き出す能力なのです。なぜなら、そこにはAKB48のようなわかりやすい魅力を持った被写体がいない場合が多いからです。

 

あと2回の登場箇所もなかなかおもしろいんだけど、略す。

読み進んでいくと、高校時代の高橋氏は「地理研究会というモテない部活」に所属していたという話がでてくる。そういう人なのである。

大学に入ると、華やかなサークルやら飲み会やらイベントやらのノリについていけず、22時の閉館まで大学図書館にこもって読書をすることが多かったという。

そういう人なのである。

しばしば、テレビ制作スタッフのデスクの上は、プロモーション用に送られてきたCDやDVD、招待チケットでいっぱいになる。その上、新人アーティストがマネージャーとともに挨拶にきたりして華やかだ。

一方、タレントをブッキングすることが少なく、「テレビ局に9年いて、仲のいいタレントは皆無です」と断言する高橋氏のもとにはCDも招待チケットも送られてこない。

そのかわり、機材レンタル会社からの「新製品のお知らせ」ばかりが送られてくるのである(手作りディレクターなので、撮影や録音も自分で行うことが多いため)。

そういう人、なんですね。

あとがきにはこう書いてある。

僕は大抵のテレビ番組が嫌いです。それゆえテレビ嫌いが見たいと思うようなテレビ番組をつくりたい。そう思い、入社以来番組を作ってきました。

すでに有名なものや人物ではなく、まだ知られていない新たな物事の魅力を見つけたい、そして磨きたい。これが僕のディレクターとしての根本的な欲求であり、本書ではそのような番組作りのためのスキルを述べました。

今のAKBにぴったりと言ってもいいし、2013年でもAKBのほとんどは地中に埋もれてその魅力を知られていなかったと言ってもいいのだが、とにかく今、高橋さんがAKBに関わるようになったのは運命というか僥倖であると感じる。あと無人島企画をぜひ再開してくださいお願いします。 #下口ひなな無人島へ

 

(強調は引用者)