48神学

Give me 大方の御批判と御教示。

正義より、クリエイティブをぶちかませ

伊藤麻希さんに感心してしまった 

 

 

LinQの伊藤麻希さんがリング上で松井珠理奈と秋元康を挑発したと聞いて、いいなあと思ってしまった。これはやすすの大好きなやつだ。48Gの若手は見習ったらいいのになと思う。

 

やすす秋元康は、かつて小野恵令奈(AKB48のOG。2006〜2010年に在籍)を絶賛したことがある。

 

こないだチームAの公演を見に行っていたら、たまたま小野と小林〔香菜〕が見学に来てたんですよ。で、本編が終わって暗転したときに、お客さんが"えれぴょん、アンコールよろしく!"、その2秒後に小野が"アンコールいくぞぉ!!"って……!

「総合プロデューサー 秋元康インタビュー」『48現象』ワニブックス、2007年

 

 「って……!」という表記……! やすすの「熱」を伝えたいというインタビュアーの意思を感じる。それほど感心していたのだろう。

 

普通絶対できないんですよ。まず先輩であるAのメンバーに気をつかう。それから照れ。あとスタッフに許可をとらなきゃとか……。僕は30年この仕事をしているけど、あの状況で2秒で言えるヤツは絶対いなかった。あれはあの瞬間あの場所にいないと見れない。神ですよ。

同上

 

だって自分の書く小説とかより、小野の‘’アンコールいくぞぉ!‘’のほうが面白いもん

同上

 

 私たちは、秋元康を「仕掛け人」扱いする思考に慣れている。AKB48Gも、「仕掛け人・秋元康」が操っているプロジェクトだと。

 そのやすすは、しかし、自分の書く物語より、小野恵令奈のアンコール発動のほうが面白いと言っているのである。

 

――〔仕掛け人〕というと、自分でいろいろ計画して意のままに動かす人って印象ですけど……。お客さんからのフィードバックにしろ、現場でのハプニングにしろ、今、秋元さんはあえて自分がコントロールできないモノを求めて、楽しんでいる感じですね。

「そうだね。だからファンの人に"どうなってるんだ!?"ってよく聞かれるんだけど、"いや、僕もわからない"っていう。本当にそうなんだよ。[…中略…]スタッフが"どうしましょう?"って来て、"えっ、そんなこと起こるの!?"ってビックリする瞬間が、いちばん大変だけどいちばん楽しい」

同上

 

高校時代に放送作家として仕事をはじめたやすすは、AKB48をはじめた47歳のときには30年のキャリアを積んでいた。フリーランスで30年生き残っただけでもすごいし、その間には誰もが知る大ヒットをいくつも生み出している。おそらく、この頃には「どんな企画でも、その気になれば必ずヒットさせられる」という自信を身に付けていたはずだ。

だからこそ、自分で考えることから何が生まれるかはだいたい予測がついてしまう。やすすの大嫌いな予定調和だ。

AKB48には、自分では考えつかないようなことをやってくるメンバーがや客がいる。自分が考えることより面白いことに出会える。だから、AKB48はやすすにとって楽しかった。

 

そこからエンターテイメントが始まると思うからね。みんなびっくりしたいっていうか、予測を超えたものが欲しいんだと思うよ。それが一番面白い。

同上

 

なぜやすすは755が好きなのか 

 

やすすに驚きを与えてくれるのはメンバーだけではなかった。

 

例えば「大声ダイヤモンド」で「好き」って歌う時、観客も全員で言うわけですよ。AKB48と一緒に「好き」を観客が言うだろうなんてことは、僕はまったく想像してなかったんです。昔だったら、たぶんこうなるだろうなっていうことを想像して作っていたんですよ。例えばとんねるずに「雨の西麻布」っていう曲を作れば、雑誌で西麻布特集が組まれるだろうな、とかね。AKB48の場合は本当に予測がつかないから。「スカート、ひらり」って曲で、「世界で一番好きなの♪」だけ全員が何故か大声で叫ぶとか。

「秋元康(総合プロデューサー)ロングインタビュー」『クイック・ジャパン87』大田出版、2009年

 

 

「世界で一番好きなの♪」は、たしかに意味がわからない(誰が得するんだろうと少しだけ思う)。だからこそ、「ヲタクすごいな」とも感じるし、はじめて聞いたときのやすすの驚きも想像できる。

 

AKB48劇場のこけら落としで「チームA 1st Stage『Partyが始まるよ』」という公演をやったときです。最後に「桜の花びらたち」という歌を歌を歌って、花びらがパーッと散る。それを暗転の間にスタッフがモップで掃除するんです。ところが、すぐ「モップ! モップ!」と、掃除をうながすモップ・コールが自然発生的に始まった。

秋元康・田原総一朗『AKB48の戦略!』アスコム、2013年

  

ネットの書き込みで、"1AKB"って言葉が出てきたから何かと思ったら、当時チケットが千円だったから、"1AKB=千円"で単位ができていたり。お客さんからいろんなものを発信しはじめていた。あともちろん、公演の内容とかメンバーについてもブログとかでいろいろ書いてくれていて。あ、これはいける! と

前掲『48現象』インタビュー

 

 やすすは、自分では決して思いつかない何かを発信してくれるファンとの対話を重視した。まだ劇場がオープンしてしばらくの間は、ロビーでファンと立ち話もした。

 

今も同じですよ。劇場で生の声を聞く機会が減ったというだけで、ファンと見えないところで会話をしているんです。例えば、僕は基本的にブログや2ちゃんねるは見ないんですけども、スタッフが面白いの出てますよってプリントしてくれるんですね。それを僕が「聞く」。その繰り返しでできあがっているのが、AKB48なんです。 

前掲『クイック・ジャパン87』インタビュー

 

毎日公演をやっているから、お客さんからネタが出てくると、すぐにリアクションできる。すぐ実現できる。それが強みですよね。テレビよりラジオに近い感じだね

前掲『48現象』インタビュー

 

 その後も、やすすはぐぐたすにアカウントを作り、一時はファンのコメントに熱心にレスポンスしていた。最近は深夜から早朝にかけての755に出没している。どんなに忙しくても、原稿が遅れても、ファンとの対話を続けたいのだ。ファンからの 「ネタ」、「リアクション」を待っているのである。

 

やすすはファンのクリエイティブを待っている

 

やすすは、ファンと「合作」したがっている(もちろん、メンバーやスタッフとも)。これは間違いない。

 

ファンが、自分で場を作ることがおもしろいんです。

前掲『AKBの戦略!』

 

アイドルファンっていうのは、みんな、それぞれ理想像があって、一人一人がプロデューサーなんですね。

前掲『クイック・ジャパン87』インタビュー

 

やすすは、ファンのクリエイティブを待っている。

 

本当のサプライズはお客さんが作ります。

「仕掛け人・秋元康氏が語るSKE48の"真の野望"とは?」『SPA!』2010年3月30日号

 

やすすは、自分が40年かけて築いた経験知とおなじくらい、ファンの感覚を信じている。

 

人間は経験則で生きるので、ファンが自分の予測とは違うところで反応したのはたまたまで、それは誤差だと思いがちなんです。でも、僕は、"そっち"だと思うんですよね。AKBは"そっち"を大事にしたいんですよ。

前掲『クイック・ジャパン87』インタビュー

 

この言葉、しびれませんか。ぼくはしびれた。

"そっち"を信じるやすすの信念がなければ、TDCホールでの13期公演などありえなかったと思う。

(やすすの決断によって13期公演開催が急転直下決定にいたったことについては、企画実現に向けて動いてきた13期ヲタ有志の方々への取材による。その詳しい経緯についてはまた別の機会に書くつもりです。)

 

たしかに、いまの48Gは「お客さんからネタが出てくると、すぐにリアクションできる。すぐ実現できる」という環境にはない。

(ファン有志による13期公演の企画書も、劇場支配人に届くまでに○ヵ月かかったらしい。このあたりの経緯についても、また別の機会に。)

 

それでも、やすすがファンと「合作」したがっていること、やすすがファンのクリエイティブを待っていることは間違いない。やすすの言葉を素直に読めば、そう考えるほかはない。

ヲタクは意外とやすすの言葉を読んでないんですよね。いや、いいんですよ。メンバーのヲタなのであって、やすすのヲタではないのだから。私はやすすのヲタでもあるので、やすすの言葉にとても興味がある。そして、やすすの言葉を読んで、ある種の「誤解」を取り除くことが、48Gのメンバー、ヲタク、スタッフにとってプラスになると考えている。だからこうしてやすすの言葉を紹介しているわけです。

 

ともかく、やすすは一緒に面白いことをやりたいのだ。ファンやメンバーから「おもしろいこと」を発信してほしいのだ。

 たとえば、755で「新公演はどうなったんですか」と詰問するのは正義である。やすすは新公演書くと約束した、なのに新公演書かない、だから新公演書けと要求する。正義ではあるが、クリエイティブは皆無である。

こういう言葉が、やすすに刺さるだろうか、と疑問に思ってしまうわけです。

いや、正しいんですよ。やすすが約束して初日の日程を決めて新聞広告まで出したのに新公演を書かないんだから。「約束を守れ」と言うのは正しい。正しいがしかし、正義の味方がクリエイティブであることはまずないのだった。正義の味方の役目は悪者のおもしろい企画(世界征服など)を潰すことです。

やすすが猛烈に新公演を書き始めることがあるとしたら、それはファンの正義の怒りが爆発したときではなく、ファンのクリエイティブをぶちかまされたときだと思う。

13期メンバーとそのヲタたちは、ぶちかました。そしてやすすを動かした。私もぶちかましたい。